アニメ
逃げ上手の若君
歴史の暗部をコミカルとトラジカルの絶妙なバランスで描くマニアックすぎる歴史スペクタクル作品
『逃げ上手の若君』とは
原作は松井優征先生の同名漫画作品。
単行本の累計発行部数は2024年7月時点で300万部を突破している。
少年は逃げて英雄となる――――
鎌倉幕府滅亡から始まるひとりの少年の物語。
『魔人探偵脳噛ネウロ』『暗殺教室』の松井優征先生が描く、週刊少年ジャンプで大人気連載中の歴史スペクタクル漫画がついにアニメ化。
鎌倉幕府滅亡の後、北条家の生き残り・北条時行が動乱の世を駆け抜ける。
アニメーション制作は『ぼっち・ざ・ろっく!』などを手掛けるCloverWorksが担当。
監督は『ワンダーエッグ・プライオリティ』で副監督を務めた山﨑雄太氏。
シリーズ構成に『その着せ替え人形は恋をする』の冨田頼子さん。
キャラクターデザインに『劇場版ポケットモンスター ココ』で総作画監督を務めた西谷泰史氏など奇才たちが集結し、美麗かつ迫力の映像で歴史の一片を紡ぐ。
あらすじ
時は西暦1333年。
武士による日本統治の礎を築いた鎌倉幕府は、信頼していた幕臣・足利高氏の謀反によって滅亡する。
全てを失い、絶望の淵へと叩き落とされた幕府の正統後継者・北条時行は、神を名乗る神官・諏訪頼重の手引きで燃え落ちる鎌倉を脱出するのだった…… 。
逃げ落ちてたどり着いた諏訪の地で、信頼できる仲間と出会い、鎌倉奪還の力を蓄えていく時行。
時代が移ろう大きなうねりを、「戦って」「死ぬ」武士の生き様とは反対に「逃げて」「生きる」ことで乗り越えていく。
英雄ひしめく乱世で繰り広げられる、時行の天下を取り戻す鬼ごっこの行方は――。
登場人物
北条時行
声 - 結川あさき
本作の主人公。
1333年時点で8歳。
北条氏の惣領である得宗北条家の御曹司。
鎌倉幕府の執権を務めた北条高時の次男・正室子として生まれた。
ゆくゆくは彼が家督を継ぐと目されていたが、尊氏の裏切りによって家と親族郎党を滅ぼされる。
鎌倉幕府滅亡後は頼重の下に身を寄せ、武芸や学問の手解きを受けつつ、打倒足利家と北条家再興をはかる。
諏訪大社で暮らすようになってからは素性を隠し、「小泉長寿丸」の仮名を名乗っている。
弓取りが比較的マシな以外は非力かつ武芸全般を苦手とする一方、追手や追撃から逃げたり隠れたりする事に関しては非凡な才能を持つ。
しかもただ恐れて逃げるだけでなく、逃げる事そのものに興奮や奮起を感じる変わった性格。
しかしどれだけ逃げに徹していても、心に決めた信念からは決して目をそらさない。
逃げ上手なことを除けば、素直で心優しく仲間想いな、どこにでもいる平凡な少年。
雫
声 - 矢野妃菜喜
諏訪頼重の娘。
巫女のような装束を着用する。
秘術や事務に優れた才能を発揮し、頼重を手伝う。
少々毒舌家で、見るからに胡散臭い父のフォローを全然しないためその都度父の頼重に文句を言われている。
頼重としては、ゆくゆくは雫を時行の執事にして、家政を取り仕切らせようと考えている。
神事で信濃各地を回っていたため様々な情報に精通しており、諸将に顔が利くため、根回しや献策を得意とする。
また、頼重ほどではないものの勘が鋭く、未来を予知しているかのように危険な状況から距離を置いたりすることが出来る。
年齢に見合わず聡明だが、どこか浮き世離れした雰囲気の持ち主。
諏訪頼重
声 - 中村悠一
諏訪家は建御名方神の末裔と伝えられており、建御名方神を祀る諏訪大社の大祝を代々務めていることから、御神体として扱われる。
そのため、彼も神性を帯びており、不完全ながらも未来を見通す能力を持ち、天候をも自在に操る。
一方で、諏訪家は諏訪郡を治める領主でもあり、得宗北条家の御内人でもあった。
頼重は京の天皇や出雲大社の出雲家と並ぶ現人神として敬われており、その信仰心を背景にした武士団である諏訪神党を従える。
見た目は孫がいるとは思えないほど若く、線の細い優男だが、感情が昂ると後頭部から後光を放ちながら胡散臭い笑みを浮かべ、頻繁に奇行に走る。
そのため、初対面の時行からは「インチキ霊媒師」呼ばわりされ、諏訪の領民からも「バカ明神」と呼ばれるなど半ば呆れられている。
足利尊氏(高氏)
声 - 小西克幸
北条時行の最大の敵。
南北朝時代の「絶対的主人公」とまで呼ばれる傑物。
文武に優れ人々の尊敬を集めており、英雄視されている。
武人らしからぬ涼やかで端正な顔立ちをしており、謙虚な態度とにこやかな笑顔でどんな人間の心も掴んでしまう圧倒的なカリスマ性を持つ。
時行にも対しても優しく接し、彼からも尊敬されていた。
理屈を超えた天性の勘に基づいて行動する。
主題歌
- 「プランA」
DISH//によるオープニングテーマ。
- 「鎌倉STYLE」
ぼっちぼろまるによるエンディングテーマ。
マイナーすぎる「敗者」北条時行
北条時行(ほうじょう ときゆき / ときつら)
先代の武家の筆頭である高時と室町幕府創始者当代の武家の棟梁である足利尊氏との中間の存在として、中先代(なかせんだい)とも呼ばれる。
そもそも南北朝時代そのものが、様々な大人の事情から漫画や小説などの創作の題材にされ難い時代である。
その為、多くの人にとって舞台となる時代背景に馴染みがない。
おまけに主人公は、武士の取り柄を何も持たない逃げ腰の御曹司・北条時行。
彼の名は、もしかしたら教科書で一度だけでも登場しているかもしれない。
しかし、もし教科書に載っていたとしてもテストが終われば皆忘れる。
そんなマイナーすぎる存在なのだ。
それもそのはずで、歴史に名を残すのは古今東西「勝者」と決まっている。
だが時行は「敗者」である。
もちろん敗者の中にも楠木正成や石田三成、真田信繁といった有名人もいることはいるが、 北条時行の知名度はあまりにも低い。
故に本作に最初に触れた際、「まさか北条時行が主人公とは!」と驚いた歴史ファンも多かったと思う。
しかし歴史をつぶさに見てみると、時行は北条家最後の生き残りとして、あの足利尊氏を翻弄した凄い武将であることが分かるのだ。
鎌倉を三度奪還
時行挙兵、鎌倉奪還
建武政権期、北条氏復興のため、鎌倉幕府の残党を糾合して鎌倉街道を進撃し、建武2年(1335年)に中先代の乱を引き起こした。
兵は5万騎に膨れ上がり、挙兵からわずか1ヶ月、足利直義を破って鎌倉奪還に成功したが、わずか20日で尊氏に逐われた。
復活と転戦、鎌倉再奪還
延元2年 / 建武4年(1337年)から翌年にかけては、鎮守府大将軍北畠顕家や新田義興(義貞の子)と共に杉本城の戦いで足利家長(斯波家長)を討って自身にとって二度目となる鎌倉奪還に成功し、顕家の遠征軍に随行して青野原の戦いで顕家らと共に土岐頼遠を破った。
ところが、遠征軍は和泉国(大阪府)で行われた石津の戦いで執事高師直に大敗、遠征軍の長の顕家は敗死したものの、時行は生き残った。
三度目の鎌倉奪還
正平7年 / 文和元年(1352年)、時行は再び義興らと共に武蔵野合戦で戦い、初代鎌倉公方足利基氏を破って三度目の鎌倉奪還を果たした。
しかし、この奪還も短期間に終わり、逃走を続けるが…。
歴史の暗部をコミカルトラジカルの絶妙なバランスで描くマニアックすぎる歴史スペクタクル作品
何度も言うが本作の舞台となる南北朝時代そのものが、様々な大人の事情から漫画や小説などの創作の題材にされ難い時代である。
故に、多くの人にとって馴染みのない時代だが、この時代の背景を一番想像しやすいであろう作品が、先に話題を呼んだNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』だ。
我々がイメージする武将とは、苛烈ではあっても己の美学を貫く鮮烈な姿が思い浮かばれる。
しかし『鎌倉殿の13人』で描かれた武将の姿は、まったく別のものだった。
鎌倉時代の武将の裏切りや寝返り、権謀術数渦巻く血で血を洗うドロドロの権力争いは、南北朝時代にも通じるものがある。
こんな暗い時代では、人気が出るわけもない。
さらに悪いことに、本作舞台の時代の顔とも呼べる足利尊氏はすこぶる不人気な人物なのである。
その一因としては、足利尊氏が皇室にとってタブーとされている南北朝分裂の原因となったことが考えられる。
現在の皇室は後醍醐天皇の子孫の南朝ではなく、逆賊・足利尊氏の擁立した北朝の子孫のため、明治時代には「南北朝正閏論争」という政治問題にもなっていた。
戦前、足利尊氏は日本史における逆賊の筆頭で、「足利尊氏は立派な人物」と言った大臣が失言としてクビが飛んだりしたほど毛嫌いされていた人物なのだ。
まさに歴史の暗部。
そんな暗黒時代を描いた漫画が存在することも驚きだが、さらにアニメ化までしようというのだから、正気の沙汰とは思えない。
思えないのではあるのだけど、実際本作を目の当たりにしてみると、なかなかどうして面白い。
ここでいう「面白い」とは、歴史の面白さでなく娯楽アニメとしての形容である。
暗い題材を、時にはコミカルに。
時にはトラジカルに、それぞれ絶妙なバランスを以って見事に描き出す。
特に第1話で描かれた、若君(時行)が自分を殺そうとする追っ手から逃げおおせるシーンは、本作のバランス感覚の素晴らしさを如実に物語る。
まるで魑魅魍魎のような追っ手の姿。
窮地を脱し頼重にしがみつく若君の愛くるしさ。
その時見せた若君の表情と、「こら。死んだらどうする。」というセリフの、えも言われぬアンバランスな魅力。
週刊ジャンプを読まなくなって久しいから残念ながら原作は未読であるが、アニメ『逃げ上手の若君』は第1話にして傑作の予感。
本作が持つコミカルな部分は、トラジカルな重要局面になればなるほどきっと活きてくる。
コミカルなキャラのトラジカルなシーンは、間違いなく涙を誘うだろう。
当然ながら作画は秀逸。
アニメ好き歴史好きはもちろん、歴史好きならずとも押さえておきたい作品である。
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